どんな現象か?
フェーン現象とは、湿った空気が山を越えるさいに、風上側で雨を降らせた後、水分を失った乾いた空気が風下側へ吹き下りることで気温が大きく上昇し、乾燥した高温となる現象です。
後ほど詳しく解説しますが、上記の説明は「湿ったフェーン現象」のことです。これ以外に「乾いたフェーン現象」もあります。
山脈や山地が多い日本では頻繫に起こる現象で、高温の一因になっています。近年記録される高温も、フェーン現象によってもたらされるものがあります。
風下側では気温が急激に上昇し、40℃前後の命にかかわるような異常な高温をもたらすことがあります。2026年より、最高気温が40℃以上の日を「酷暑日」と呼ぶことが始まりました。(酷暑日はフェーン現象によるものだけではありません)
フェーンとは … ヨーロッパのアルプス山脈の麓にあるフェーン地方に局地的に吹く、乾燥した暖かい風が由来となっています。この風に、気象学者の岡田武松が、漢字で「風炎」と名付けました。
現象が起こる仕組み
フェーン現象には、「湿ったフェーン現象(ウェットフェーン)」と「乾いたフェーン現象(ドライフェーン)」の2種類があります。
一般的にフェーン現象というと湿ったフェーン現象のことを指しているように思われますが、実際は、乾いたフェーン現象の方が発生割合が多いとの報告もあります。
湿った空気(風上側)と乾いた空気(風下側)では、温度の変わりやすさに違いがあります。水は熱容量が大きいので、乾いた空気の方が湿った空気よりも温度変化が大きくなります。
熱容量 … ある物体の温度を1℃上げるのに必要な熱量(エネルギー量)のことです。この値が大きい物質ほど、多くのエネルギーが必要なので、温まりにくく冷めにくくなります。
湿った空気 ⇒ 温度の変化が小さい
乾いた空気 ⇒ 温度の変化が大きい
これにより、風上側の斜面を空気が上昇するときに温度が下がりますが、空気が湿っているために、下がり方は相対的に小さくなります。(湿った空気が断続的に上下するとき、100℃につき約0.5~0.6℃変化することを湿潤断熱減率といいます。)
一方で、風下側の斜面を空気が下降するときに温度が上がりますが、空気が乾燥しているために、上がり方は相対的に大きくなります。(乾いた空気が断続的に上下するとき、100℃につき約1℃変化することを乾燥断熱減率といいます。)
なぜ空気が上昇するときに温度が下がるのかについては、以下の記事をご覧ください。

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風上側の気温の下がり方 < 風下側の気温の上がり方
100mにつき0.5~0.6℃低下 < 100mにつき1℃上昇
湿潤断熱減率 < 乾燥断熱減率
最初の風上側と比べて風下側に至った時点で気温は上昇していることになります。
風上側の気温 < 風下側の気温
これによって、風上側よりも風下側の方が温度が高くなるのです。
湿ったフェーン現象
湿った空気が風上側の山を越えるときに雲が発生して雨を降らせた後、乾いた空気が山を越えて風下側に地表付近まで吹き下ります。
風上側で降水を伴うフェーン現象です。

乾いたフェーン現象
風上側の山を越えるときに雨が降らず、もともと上空にあった乾いた空気が、山を越えて風下側に地表付近まで吹き下ります。
風上側で降水を伴わないフェーン現象です。

どのような状況で起こるか?
フェーン現象はどのような条件で起こるでしょうか? いくつかの発生パターンを示しました。
<フェーン現象の例>
- 低気圧が日本海を進むとき、低気圧に向かって吹き込む風が山を越えて、日本海側で湿ったフェーン現象が起こりやすくなります。
- 台風そのものや台風からくずれた低気圧による風が山を越えるとき、台風由来の暖かく湿った風により、風下側でフェーン現象が起こりやすくなります。
- 夏の高気圧から吹き出す西寄りの風が山を越えるとき、太平洋側で乾いたフェーン現象が起こりやすくなります。
フェーン現象は、夏~秋に起こりやすいですが、その他の時期にも起こります。また日本海側で起こりやすいですが、条件が揃えば太平洋側でも起こります。
フェーン現象と大火
フェーン現象は風下側に下りて来る空気は高温になるだけでなく、とても乾燥します。そのために火災が起こりやすくなり、さらに、吹き下ろす強風によって火災が大規模になりがちです。フェーン現象と火災は密接な関係があるのです。
過去にもフェーン現象によるものと思われる大火が起こっています。
<フェーン現象による大火の例>
- 1961年5月 岩手県宮古市
この出来事は「三陸フェーン大火」と呼ばれています。台風から崩れた低気圧が三陸を通過するタイミングで、フェーン現象により風速30m/s 近くの乾燥した強風が吹き荒れました。5月にもかかわらず、最高気温が30℃近くまで上昇したこともあって、約40,000haの焼失面積となりました。 - 2016年12月 新潟県糸魚川市
フェーン現象により乾燥した強い南風「蓮華おろし」(最大瞬間風速約27m/s)により、発生した火災が飛び火となって市街地に延焼しました。糸魚川市は同じような原因で、何度も大火を経験しています。
1976年10月の山形県酒田市の大火も、フェーン現象によるものではないかといわれていますが、そうではありません。強風が吹き荒れたことが延焼に原因になっていますが、この強風は、風向きから山から吹き下りた風ではないことが分かっています。また当時の酒田市は断続的な降雨のために空気は乾燥しておらず、フェーン現象の条件には当てはまりません。
冬の季節風はフェーン現象なのか?
以下にある日本列島の断面図は、冬の季節風によって空気が日本海側から太平洋側に進んでいく過程を示しています。

湿った空気が山を越えるさいに、風上側で降水をもたらした後、水分を失った乾いた空気が風下側に吹き下りるというフェーン現象の仕組みについて考えると、冬の季節風によって、日本海側(風上側)から太平洋側(風下側)に空気が流れるさいにも、フェーン現象と同様の現象が起きていると考えることができます。
しかし、実際にはこの状況では風下側には高温は発生しません。
その理由として、日本海から流れてくる空気は、もともとシベリア方面からやって来る大陸由来の寒気なので、山を越えて太平洋側(風下側)に降りたとしても、暖かい季節ほど高温にはなることは通常はありません。このときに吹き下りる風を「からっ風」といいます。この風は冬の冷たい空気が強く吹くので、逆に気温以上に寒く感じ、体感温度は大きく下がり、火災が起こりやすくなります。
この風は、関東地方などで冬によく吹く俗称といえます。特に群馬県周辺では「上州からっ風」ともいわれています。
このようにフェーン現象と同じ仕組みなのですが、空気の質の違いによって、風下側では感じ方が真逆になるのです。
冬でも、高温になるフェーン現象は起こりませんか?
冬でも条件が重なれば、夏ほどの高温にはなりませんが、フェーン現象は起こります。場合によっては、春のような暖かさや一時的にある程度気温が上昇することがあります。
冬の季節風については、詳しくは以下の記事をご覧ください。


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