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【公民】国会に設置されている弾劾裁判所とは?

学習Q&A 公民
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どんな裁判所?

弾劾裁判所は正式には「裁判官弾劾裁判所」(さいばんかんだんがいさいばんしょ)といいます。

本来は人を裁く立場にある裁判官が、その職務を甚だしく怠ったり、職務上の義務を違反したりした場合に、さらに職務の内外を問わず、裁判官としての威信を失くべき著しい非行があった場合に、その裁判官を罷免させるかどうかを判断するために行われる裁判所のことです。

罷免とは … ある役職に就いている人を、その役職から強制的に辞めさせることです。

裁判官は何かに拘束されたり、どこからかの圧力を受けたりせずに公平な裁判を行う必要があるので、その身分は憲法によってしっかりと保障されています。そのために裁判官の身分を奪うことは簡単にできないようになっています。そのためにこのような特別な裁判所が設置されています。

日本における弾劾裁判には、裁判官弾劾裁判と人事官弾劾裁判の2種類がありますが、この記事では裁判官の弾劾裁判について取り上げます。

人事官とは … 人事院を組織する特別職の国家公務員のことです。

弾劾裁判所は通常の裁判のように裁判官が裁くのではありません。この裁判所は裁判官にかわって、国民の代表者であって立法権である国会が裁きます。そのために国会に設置されていて国会議員が行います。そのことは日本国憲法で次のように定められています。

日本国憲法第64条1項 … 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。

国会が弾劾裁判をすることの意義は憲法第78条からも分かります。どの行政機関も裁判官の処分等を行うことはできません。もし特定の行政機関が行うことができれば、それらの当事者や関係者に手心を加えることもあり得るからです。

日本国憲法第78条 … 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

弾劾とはどんな意味?

一般的に弾劾とは、身分がある者が義務違反や非行などの理由で、議会の訴追によって罷免され、処罰される手続きのことです。

弾劾裁判所は、中世のイギリス(イングランド)に起源があるとされています。イングランド国王の諮問機関であった王会が、国王の任命した高官を訴追して、裁判を行うようにしたものです。やがてアメリカなどにも継承されていきます。

他の裁判所とは何が違う?

通常の裁判とはどのような点が異なるでしょうか?

弾劾裁判通常裁判
どこが訴えるか訴追委員会刑事裁判 … 検察官
民事裁判 … 誰でも
裁判する人選出された国会議員裁判官
裁判する人の服装特に規定がない「法服」と呼ばれる黒い服を着る
裁判する人の資格国会議員 (資格は必要ない)司法試験に合格すること
裁かれる人裁判官訴えられた人
判決に対して不服を申し立てられない不服なら3回まで裁判を受けられる
場 所 参議院第二別館・南棟9階 全国の裁判所
傍 聴公開されていて傍聴可能公開されていて傍聴可能

このようにいくつかの点を考えると、通常裁判とは大きく異なることが分かります。

どのように行われるか?

弾劾裁判所の裁判員は、衆議院と参議院からそれぞれ7名ずつの合計14名の国会議員から選ばれます。加えて4名ずつの予備員も選ばれます。これらの裁判員の任期は議員の任期終了までとなります。また裁判長は衆議院と参議院の裁判員の中から交互に選ばれて、任期は1年になります。選ばれる国会議員の所属している政党や会派などは関係なく裁判員が構成されています。

選出される国会議員は法律に関する特別な知識や資格は求められていません。

この裁判は通常の裁判のように調査して裁判をするのではなく、訴追委員会から裁判官の罷免の訴えがあった場合に開かれます。

訴追委員会とは … 裁判官を弾劾するさいに、裁判官を弾劾裁判所に訴えるために国会に設置される機関です。国会内に設置されますが、国会とは独立した機関です。この委員会は刑事事件における検察官のような役割に相当します。訴追委員数は衆議院と参議院からそれぞれ10名ずつの合計20名が選ばれています。

以下のような流れで裁判が行われます。

分限裁判との違い

分限裁判(ぶんげんさいばん)とは、裁判官が以下の(1)~(3)に該当する場合に行われる裁判です。ではこの記事で考えている弾劾裁判とはどのように異なるのでしょうか?

分限裁判になる基準
(1)回復の困難な心身の故障のために職務を執ることができない場合
(2)本人が免官を願い出た場合
(3)職務怠慢・非行・服務規律違反

弾劾裁判分限裁判
目 的裁判官の規律維持のため裁判官の規律維持のため
対 象罷免に相当する著しい非行など服務規律違反
場 所 国会内の裁判官弾劾裁判所  最高裁判所または高等裁判所 
判 決罷免免職・戒告・過料(1万円以下)

分限裁判は免職以外では、戒告・過料などの比較的軽い処分を科すことが目的ですが、弾劾裁判は罷免という重い処分を目的としているという点が大きな違いです。

どちらにも裁判に該当する理由として裁判官の「非行」が関係していますが、弾劾裁判の方は「著しい非行」という表現の違いがあることに注目できます。

弾劾裁判所の事例

これまでに弾劾裁判を受けた裁判官は10人になります。そのうち罷免された裁判官は8名となります。訴追事由についても、その時代の情勢を反映していて様々なものがあります。

訴追された年訴追事由裁判の結果
1948年(昭和23年)業務を放棄し無断欠勤不罷免
1948年(昭和23年)捜索情報を知人に漏らす不罷免
1955年(昭和30年)事件処理を怠る罷免
1957年(昭和32年)裁判関係者から飲食の提供を受ける罷免
1977年(昭和52年)首相に虚偽の捜査状況を報告罷免
1981年(昭和56年)裁判関係者から物品の提供を受ける罷免
2001年(平成13年)少女への児童買春罷免
2008年(平成20年)裁判所職員の女性へのストーカー行為罷免
2012年(平成24年)電車での盗撮行為罷免
2021年(令和03年)SNSでの不適切投稿罷免

上記のある事例について詳しく見てみましょう。

2021年の事例について … ある判事がSNSで繰り返し行った投稿が、ある刑事事件の被害者家族の心情を傷つけたとして罷免されました。(この事件以外にも民事訴訟についての投稿も行っていました。)この投稿を行った元判事は自らが裁判官であるとは明らかにしていませんでしたが、個人名と顔写真を載せた状態で投稿していました。
このことが、弾劾裁判にかかる根拠となる「裁判官としての威信を著しく失う非行」であったとして判断されたのです。
このように表現行為が理由として罷免されたのは初めてのケースとなりました。まさにネット時代特有のケースといえます。

 

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