質量保存の法則とは
質量保存の法則とは、化学反応前後で質量が変わらないという意味です。反応前と反応後の全ての物質の質量の合計は常に同じです。
化学反応式から化学変化を見てみると、質量保存が成り立っていることが理解できます。それは、式の左辺と右辺の原子数が等しいからです。
具体的に、炭酸水素ナトリウムと塩酸を反応させた化学反応式から詳細に見てみましょう。
NaHCO3 + HCl → NaCl + H2O + CO2
※ NaHCO3 …炭酸水素ナトリウム HCl…塩酸 NaCl…塩化ナトリウム H2O…水 CO2…二酸化炭素
これは、「炭酸水素ナトリウム」と「塩酸」を反応させると、「塩化ナトリウム」と「水」と「二酸化炭素」の3つの物質が発生することを表した式です。
この化学反応式は一見複雑そうに見えますが、注意深く見ると、反応前の原子が反応後に全て使われていることが分かります。そのことによって質量保存の法則を実感することができます。
よく見ると、左辺と右辺の原子の組み合わせが変わっただけであることが分かります。本当に左右の辺で原子数が同じなのか、下の表に原子毎にまとめてみました。
| 反応前(左辺)の数 | 反応後(右辺)の数 | |
| ナトリウム原子(Na) | 1 | 1 |
| 水素原子(H) | 2 | 2 |
| 炭素原子(C) | 1 | 1 |
| 酸素原子(O) | 3 | 3 |
| 塩素原子(Cl) | 1 | 1 |
このように比較すると、化学反応の前後で原子の数は変化していません。原子は同じ種類であれば質量は同じです。このことから原子の数が等しいということは、質量も等しいと言えます。このことから質量は反応前後で保たれていることが分かります。
このような物理的な法則を「質量保存の法則」といいます。質量保存の法則はシンプルですが、実は少し混乱することがあります。
質量保存を確かめるために実験をしていると、次のような結果になることもあります。上記と同じ化学反応なのに、質量が小さくなることがあるのです。
質量保存の法則が成り立つはずなのに、なぜ質量は小さくなるのか?
それでは、このことを次に考えましょう。
炭酸水素ナトリウムについて詳しく知りたい人は以下の記事をご覧ください。

なぜ反応後に質量は小さくなることがあるのか?
この実験は、次のイラストのように密閉した容器の中で炭酸水素ナトリウム(容器内の白い物体)と塩酸(容器内の試験管の中の液体)がある状態で、容器全体をかたむけて容器の中で混ぜて反応させます。
その結果、上記の化学反応式からも分かるように、塩化ナトリウムと水と二酸化炭素が発生します。そうすると質量はどうなるのでしょうか? 次の2つのパターンが考えられます。

パターン(1)左のイラストにあるように、発生した物質が逃げないようにふたをして密閉させて閉じた空間にすると、反応前後での質量は変化ありません。
パターン(2)最初からふたをしなかったり反応後にふたを開けたりすると、反応後の質量は小さくなってしまいます。
なぜふたが無い状態だと質量が小さくなってしまうのかな?
それは、反応後の物質に二酸化炭素が含まれているからです。なぜ二酸化炭素だと質量が変化してしまうのでしょう。それは反応後に発生した二酸化炭素は、常温では気体の状態なので、容器外に逃げていってしまうからです。
気体とは、分子(原子)がかなり自由に飛び回っている物質の状態です。密閉された空間においては、その中で激しく動き回るだけですが、開放された空間だと、その開口部分から外に飛び出て行ってしまいます。
では、発生した二酸化炭素が逃げていく理由を詳しく見てみましょう。
なぜ発生した物質が逃げていくのか?
なぜ発生した二酸化炭素は、外に逃げていくのでしょうか? 仮にふたが無くても逃げないでその中で動き回ることもできそうな気がします。しかしそうなならないで外に出ていくのです。その理由は気体の方が体積が大きいからです。
化学反応式をもう一回見てみましょう。NaHCO3 + HCl → NaCl + H2O + CO2
この式を見ても分かるように、発生前は炭酸水素ナトリウム(固体)と塩酸(液体)だったものが、反応後は塩化ナトリウム(固体)と水(液体)と二酸化炭素(気体)になっています。
以前学習したと思いますが、気体は固体・液体よりも体積の方がはるかに大きくなります。
同じ質量での体積の比較 気体 > 液体 > 固体
気体の体積の大きさを確かめる実験があります。
液体のエタノールを入れた袋に熱いお湯をかけて暖めると、袋はどんどん膨らんでいきます。その原因は、液体のエタノールが沸点に到達して気体になったからです。ちなみにエタノールの場合、液体から気体で体積は数百倍になります。このことから、液体から気体になると体積が非常に大きくなることが理解できます。
そのため、ふたをしたまま実験をすると、その容器内では気圧が非常に大きくなります。言い換えれば容器内がパンパンの状態になっているのです。中で発生した物質は狭くて苦しいので出たくて出たくて仕方ありません。
そのようなタイミングでふたを開けると、容器の中であらかじめ空気と混ざっていた二酸化炭素は外に一気に押し出されていくのです。
質量保存の法則 まとめ
質量保存の法則とは、冒頭で説明したように化学反応前後で質量に変化がないことです。しかしこのことをより正確に説明しますと、閉じた空間である場合、質量保存の法則が成り立つといえます。
閉じた空間であれば、原子(分子)が外に逃げたり、外から侵入して来たりすることがありません。また、原子が勝手に出現したり消滅したりすることもありません。
このことから、容器内の世界に限定しないで大きな視点で考えると、化学反応においては、「質量保存の法則」は確かに成り立っています。

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